〜八ヶ岳まあるい学校で、大切にしたいもの〜

明けましておめでとうございます。

新しい年も始まり、今月は12日(火)からのスタート、開校日も週2日から3日へと増やし、4月の本オープンに向け準備を進めております。
本年もよろしくお願いします。
 
八ヶ岳まあるい学校に来る子供たちは、特に寒い季節になってからは、まず
火を焚くか…と言って、薪を割ったり火付けの松ぼっくりや松葉を拾い集め始めます。
そしてファイアーピットに火が入ると、そこからロケットストーブに火を入れ、昼のみそ汁作りの準備が始まります。
今では何気ない学校の風景なのですが、火を起こし、火を使い調理する…。
多くの生活で「火」が、ガス、灯油、電気に変ってしまったこの世の中で、本物の「火」に触れることの大切さを改めて感じている次第です。
学校の中心に「火」がある。
これは八ヶ岳まあるい学校で、大切にして行きたいことのひとつです。
 
そして火を焚くとき、いつも私の心の中に、魂の奥深くに浮かび上がる詩があります。
それは屋久島の詩人 故 山尾三省さんの「火を焚きなさい」。
2001年に他界される前、NPO法人 東京自由大学の講座で三省さんとのご縁を頂き
詩の朗読と私の土笛の音を奏でるという講座では、三省さんの数多くの詩の世界に触れさせて頂く事が出来ました。
これからの八ヶ岳まあるい学校の道しるべのひとつとして、この詩をここに掲げさせて頂きます。
 
宇々地 拝

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「火を焚きなさい」  山尾 三省
 
山に夕闇がせまる
子供達よ
ほら もう夜が背中まできている
火を焚きなさい
お前達の心残りの遊びをやめて
大昔の心にかえり
火を焚きなさい
風呂場には 充分な薪が用意してある
よく乾いたもの 少しは湿り気のあるもの
太いもの 細いもの
よく選んで 上手に火を焚きなさい

少しくらい煙たくたって仕方ない
がまんして しっかり火を燃やしなさい
やがて調子が出てくると
ほら お前達の今の心のようなオレンジ色の炎が
いっしんに燃え立つだろう
そうしたら じっとその火を見つめなさい
いつのまにか --
背後から 夜がお前をすっぽりつつんでいる
夜がすっぽりとお前をつつんだ時こそ
不思議の時
火が 永遠の物語を始める時なのだ

それは
眠る前に母さんが読んでくれた本の中の物語じゃなく
父さんの自慢話のようじゃなく
テレビで見れるものでもない
お前達自身が お前達自身の裸の眼と耳と心で聴く
お前達自身の 不思議の物語なのだよ
注意深く ていねいに
火を焚きなさい
火がいっしんに燃え立つように
けれどもあまりぼうぼう燃えないように
静かな気持で 火を焚きなさい

人間は
火を焚く動物だった
だから 火を焚くことができれば それでもう人間なんだ
火を焚きなさい
人間の原初の火を焚きなさい
やがてお前達が大きくなって 虚栄の市へと出かけて行き
必要なものと 必要でないものの見分けがつかなくなり
自分の価値を見失ってしまった時
きっとお前達は 思い出すだろう
すっぽりと夜につつまれて
オレンジ色の神秘の炎を見つめた日々のことを

山に夕闇がせまる
子供達よ
もう夜が背中まできている
この日はもう充分に遊んだ
遊びをやめて お前達の火にとりかかりなさい
小屋には薪が充分に用意してある
火を焚きなさい
よく乾いたもの 少し湿り気のあるもの
太いもの 細いもの
よく選んで 上手に組み立て
火を焚きなさい
火がいっしんに燃え立つようになったら
そのオレンジ色の炎の奥の
金色の神殿から聴こえてくる
お前達自身の 昔と今と未来の不思議の物語に 耳を傾けなさい
 
「びろう葉帽子の下で/山尾三省詩集」(1993年、野草社刊)より